フランスの保険業界は、リチウムイオンバッテリーの発火リスクに懸念を強めている。特に企業が社用車フリートをEVに切り替える中で、バッテリーの火災リスクを織り込んで、車両保険の保険料が引き上げられる可能性があると予測されている。
今年6月に3万5000個のリチウム電池が保管されていた韓国の電池工場で火災が発生し、20人が死亡するという事故があったが、フランスでも2月にアベロン県のリサイクル業者の倉庫に保管されていた900トンのリチウム電池が焼失するという事故が起きた。2022年4月に走行中の電気バスで火災が発生したり、今年6月には屋内に置かれていた電動キックボードのバッテリーが爆発するという事例もあり、注目が強まっている。
こうした状況で、仏保険業界団体の依頼により、仏国立予防保護センター(CNPP)が11月12日にウール県ベルノンの拠点において、リチウム電池の火災と消火に関する実験を実施した。
270平米の特設倉庫内に設置したバレット(荷役台)に40個の電動自転車用電池を上に積んでおき、そのうちの1個を加熱パッドに接触させたところ、10分ほどで温度が800度に達して発火し、ほかの電池を次々に爆発させ、同じパレット上で周囲に置かれた段ボール箱にも飛び火した。この実験では消火用のスプリンクラーが倉庫の天井に設置されており、温度が上昇すると自動的に作動する仕組みで、火災発生から16分後にスプリンクラーが作動して、半時間にわたり散水して消火した。
CNPPは今後も類似の実験を繰り返すことで、リチウム電池の火災がどのように発生し、周囲に拡大するかを理解するともに、延焼を食い止めるための消火システムの効果を把握することを目指す。最終的には、リチウム電池の火災の被害を最小限に食い止めて、保険会社の補償負担を減らす最適な手段を見極めることが狙いとなる。
ただし、家庭でも企業でも乗り物でも、リチウム電池の使用は拡大する一方であり、火災のリスクも増大することは否めない。仏保険業界団体でも、経済のグリーン化に伴いリチウム電池の使用が増えており、それはとりも直さずリスクの増大にもつながると認め、火災発生は稀だが、いったん起きると被害は大きいと指摘している。
リチウム電池の火災は熱暴走現象により発生するが、熱暴走の原因は多様であり、同種の電池が必ずしも同じように反応するわけではなく、単なる衝撃による歪みや不適切な充電器の使用などでも発生することがあるため、予防は難しいという。また電池の火災は通常の火災よりも消火に大量の水を必要とする難点もわかっている。火災が起きる場所が倉庫か駐車場かなどにより火の回りかたも異なるため、対策には周到な準備が要求される。