総選挙の第1回投票が6月30日に行われた。事前に予想された通り、極右RN(国民連合)がトップとなった。決選投票は1週間後の7月7日に行われる。
7月1日未明に内務省が発表した開票結果によると、RNの得票率は全体で29.25%となった。決選投票を待たずに当選を決めた候補者は37人に上った。保守野党の共和党を飛び出してRNとの選挙協力を決めたシオティ党首が立ち上げた候補リストは、得票率3.9%で1議席を獲得。両者を合計すると、得票率は33.15%と極めて高い水準に達した。第2位は左派連合(新民衆戦線)で、得票率は27.99%、第1回投票における獲得議席数は32に上った。マクロン大統領の与党連合は得票率が20.04%で、第1回投票における獲得議席数は2にとどまった。保守野党の共和党は得票率が6.57%、獲得議席数は1にとどまった。投票率は66.71%とかなり高く、2022年の前回総選挙時の47.5%を大きく上回った。関心の高さをうかがわせた。
マクロン大統領は、欧州議会選挙における極右RNの台頭を受けて、解散総選挙という意外な選択をした。極右の脅威を材料に、自陣営への支持を膨らませようとする背水の陣だったと考えられ、左右の中間層を切り崩して新たな支持基盤を形成する目論見もあったと思われる。ただ、左派勢力は、一枚岩ではないものの選挙協力を実現して反極右をアピール。反極右の唯一の勢力として支持を集めることを狙ったマクロン大統領の賭けは裏目に出た。右派陣営内でも、共和党のシオティ党首派がRNとの選挙協力を選択。極右と左翼の両方に支持を吸い取られる形で、中間派を糾合して多数派を実現したマクロン大統領は自らの選択で足元を掘り崩す格好となった。大統領の不人気は本物であり、極右にせよ左翼にせよ反マクロンが集票の最大の材料になったと言えるだろう。現職への逆風と変化への期待は、フランスでも20年近く前から続く傾向であるが、今回も、購買力の低迷や治安懸念などに敏感になった国民が現政府に対して拒否の意思表示をした結果とみることができる。大統領の心の内はわからないが、ここで自らの制御下で極右に政局運営を譲り、国民が極右内閣に失望したところで、例えば2027年の大統領選挙で政権を奪回する(マクロン大統領本人は連続3選を禁止する憲法の規定があり立候補できないが)という作戦だという穿った見方もできるかもしれない。
下院は全577議席で、過半数は289議席。第1回投票では、過半数を獲得した候補は決選投票を待たずに当選を決める(選挙区の有権者数に関する最低限の規定あり)が、そうでない場合には、一定の得票率の候補者が決選投票に進出できる(実質的に4人までが進出できる)。3大勢力のいずれも進出権を得た場合には、極右候補の当選阻止を目的に、第3位の候補者が辞退し、対立候補への支持を表明するという選択ができる。連立与党を率いるアタル首相は、極右阻止を目的に、「共和派戦線」を組んで、必要な限り左派連合を支持するとの方針を明らかにした。実際に各選挙区でどのような決断が下されるかについては、趨勢を見守る必要がある。全国では半数を超える選挙区でRNがトップとなっており、全体として、RN、左派連合、連立与党の3候補が進出権を得たのは244選挙区(RN、左派連合、共和党の3候補が進出権を獲得したのは46選挙区)、2候補進出の選挙区では、左派連合とRNの組み合わせ(67選挙区)が圧倒的に多く、「極右×連立与党」は32選挙区と少ない。なお、RNを率いるマリーヌ・ルペン氏と社会党のフォール第一書記は第1回投票で当選を決めた。共産党のルーセル全国書記は決選投票に残れずに敗退した。RNではこのほか、有力者のシュニュ下院議員が決選投票を待たずに再選を決めた。左翼「不服従のフランス(LFI)」では、改選前のパノLFI議員団団長とボンパール下院議員が再選を決めた。