「人生の道の半ばで 正道を踏み外した私が 目をさました時は暗い森の中にいた」ダンテの「神曲」の冒頭の句である。ダンテはこの時35才で、半分が35才なら全体は70才と、ダンテが生きた13-14世紀という時代を考えると長くないかという気もするが、これは旧約聖書の詩編第90章10節「人生の年月は70年ほどのものです」を根拠にしているらしい。いずれにせよ、中年が迷いの中というのは今も昔も変わらない。
現在は39才がそうした迷いの年であるという。派遣会社Actualなどが行った調査によると、無期雇用契約(CDI)の就労者の場合、希望的な気持ちの人と悲観的な気持ちの人の占める割合は、ちょうど39才を境に反転する。この年になると、労働市場における自分の商品価値に自信が持てなくなり、転職の可能性を自ら封じてしまう人が増えてゆく。住宅ローンも残っていたりするので、安定重視で守りに入り、転職で失敗するリスクを負う勇気がなくなる。失うもののない新卒者だった頃の進取の気性は今はもうない。この時期を過ぎると、不承不承の職であってもとどまるしかないと考えるようになり、そうすると、主体性を失い、モチベーションを喪失するリスクが高まるという。Actual社のサミュエル・チュアル社長は、企業側としては、39才以上の経験者には、尻の温まらない若い世代とは違い、安定してとどまってもらえる利点もあるとし、商品価値が落ちると考えるのは誤りだと説明している。