美術品を資産とする企業の上場・取引を行うユニークな市場が発足した。Artex社が先頃、初の上場企業を発表した。
Artexはリヒテンシュタインで認可を受け、新市場の運営を行う。決済・精算ではスイスのSIX(株式市場運営)の協力を得る。取引の情報はブルームバーグ等を通じて配信される。
去る5月30日には、初のIPO案件として、フランシス・ベーコンの3枚続きの絵画「ジョージ・ダイヤーズの肖像のための3つの習作」(1963年)を資産とする企業(ルクセンブルク籍)の設立がロンドンのビクトリア&アルバート博物館を会場に発表された。この作品の評価額は5500万ユーロで、同市場のIPO案件の規定により、100ドルを額面とする株式が発行される(この案件だと55万枚)。所有者にとって上場には、競売時に競売所がとる35%の手数料を払わなくて済む(Artexがとる手数料は3%)という利点がある。他方、資産である美術品は無料で貸与され、公開される規定になっており、投資した株主は配当金を一切得られない。将来の資産売却時には譲渡益を期待できるが、Artexは特に、価値が安定し、将来の値上がりを見込める美術品への投資をしやすくして、資産価値の保全を狙う投資家を呼び込むことを目指している。そのために株式の取引市場とその流動性の確保が課題だが、Artexは、マーケットメイカーによる流動性確保を手配している点を強調している。
リヒテンシュタインは欧州連合(EU)加盟国ではないが、協定により同国の金融業者には、EU全域で事業展開が可能ないわゆるEUパスポートが与えられる。ただ、株式市場の監督実績はリヒテンシュタインにはなく、信頼のある監督体制が得られるのか、疑問視する見方もある。