2035年に欧州連合(EU)域内での新車販売をゼロエミッション車に限定する規制をめぐる対立で、3月23-24日のEU首脳会議を経て25日に合意が成立した。ドイツの要求に応じる形で、EV以外に、E燃料(合成燃料)を用いることを条件にエンジン車の販売継続も認める方針を欧州委員会が受け入れた。当初案では2035年を境に域内での新車販売をEVのみに完全に移行させることが予定され、すでに欧州委員会、EU理事会、欧州議会の合意が成立していたが、ドイツの自動車業界と政府の抵抗により土壇場で決定が覆った。2035年にエンジン車の新車販売を禁止する計画には、ドイツの主要自動車メーカー・自動車部品メーカーと自由民主党(FDP)のほかに、イタリア、チェコ、スロバキアなども異議を唱えていた。
政治的にはドイツが勝利した形だが、ドイツのゴリ押しとそれに屈した形の欧州委員会の対応については、EUの制度的信頼性を貶めたとの批判がドイツ国内からも出ている。また合成燃料の使用によりエンジン車の販売を継続する構想には産業面で疑義も表明されている。特に、合成燃料の価格の高さが問題視され、今後に技術の進歩と量産化により低下することを考慮しても、十分な価格競争力を確保できる見込みは薄く、使用するとしてもポルシェ、BMW、フェラーリなどの高級車限定のニッチな範囲にとどまるとみられている。他方、環境派はこの合意に強い批判を浴びせている。EV移行にブレーキがかかり、欧州のEV技術が、EVですでに先行している中国などに遅れをとる懸念も指摘されている。
なお、2035年以降に新車販売をゼロエミッション車だけに限定する方針自体には変更はなく、27日に加盟国の大使級会合で再検討された上で、28日のEUエネルギー相会合で最終採択される運びとなった。