フランス情報メディアのET TOI(エトワ)

フランスと日本をつなぐ

1€=

新規登録

くわしく知りたい! フランスの教育制度(前編)

「義務教育は何歳から?」「大学へ行くにはバカロレアを受験?」……。フランスの教育制度について度々耳にすることもあっても、その細かなシステムや実際にどのような教育課程を経ていくのか、子供たちはどんなふうに学校や専攻を選んでいくのかなどはわからないことも多いのではないでしょうか。

そこで、エトワではフランスの教育制度の概要と、フランスの家庭や教育現場での実情について、教育業界に詳しく、二人のお子さんを育てる親でもあるジュリアンさんにお話を伺いました。



1. 義務教育における学校選択について

── フランスでは地域や地区によって学校のレベルに差があり、子供をよい学校に行かせるために引っ越すこともある、という話を聞いたことがありますが、実際のところどうなのでしょうか?

 それが親として一番の悩みかも知れません。フランスの義務教育は3歳(幼稚園)からですが(2019年までは6歳からでした)、その時点から「自分の子供はどんな学校に行くことになるのだろうか」という不安が始まります。フランスでは、基本的に公立学校の場合、入学試験がなく、入学の唯一の条件は「住所」となります。つまり、住んでいる場所によって通う学校が決まるということです。それをcarte scolaire(学区)と言いますが、家を買ったりアパートを借りたりする前に、必ずその住居がどの学区にあるかを調べておきます。その町や村に学校が一つしかない場合は簡単ですが、複数ある場合、住む場所が数メートル離れると違う学校に行かされることもあります。

 ですから、子供を評判のいい学校(語弊がありますが、簡単に言うと「いい学校」)に行かせたければ、学区に合わせて住居を選ぶこともよくあります。例えば、不動産屋の物件案内には学区による最寄りの学校名が記載されています。物件を買うときの重要なポイントとなっているわけですね。

 また、決められた学校以外の学校を自由に選ぶ方法としては、市役所にdérogation(特例の許可)申請をするか、または学区制度に束縛されない私立学校に入れるしかありません。前者の場合、ちゃんとした理由がないと受理されないので、学区の回避方法として使われるのは、特に高等学校の場合、狙っている学校にしかない任意科目option(ラテン語、音楽、日本語……などの珍しい科目)を第一希望に書いておくという方法があります。逆に学校側の立場からすると、そういう珍しい(エリート系の)任意科目を提供していれば学力の高い学生が集まるというメリットもあるので、学力レベル(偏差値)を上げる一つの方法でもあります。

 フランスの教育制度では「教育はタダだ」とよく言われていますが、実際このように住む場所によって学校が決まってくるので、いい学校に行きたければ物価の高い地域に引っ越さなければならなりません。その結果、授業料に使わないお金は結局、家賃やローンに充てられるから、決して「タダ」ではないですね。


2. 中学卒業後の進路、専攻について


── フランスではいつ頃から将来の仕事や専攻を見据えて、学問の専攻を行っていくのでしょうか? 日本とは違い、一度選択してしまうと後々の進路変更は難しいという話も聞いたことがありますが……。

 まず、中学卒業(16歳)までは義務教育になるので、第一外国語と第二外国語以外、すべての科目は共通です。中学卒業後、主に2つの進路があります。すなわち、一般過程・技術過程voie générale et technologiqueと職業課程voie professionnelleです。

 職業課程は先日(5月4日)のマクロン大統領の学校訪問と職業課程改革案で話題*1になっていますが、職業高等学校lycée professionnelでの3年間のコースを経て、職業バカロレアbaccalauréat professionnel、または職業教育免状BEPや職業適性証CAPを取得したあとすぐに就職するためのカリキュラムです。専攻はいろいろあり、抽象的な勉強が苦手で早く手に職をつけて仕事したい若者に最適な進路です。ただ、残念ながら昔から一般科より低く評価、または蔑視されがちで、「一般科に進学できなかった子が行く学校」というネガティブなイメージをいまだに拭えないのが現状です。今回の改革案はそれを打倒しようとするものでもあります。実際、2008年に一般科進学が54.6%、職業学校が37.7%に対し、10年後の2018年にはそれぞれ63.7%・32.6%と、一般科進学の方が多くの学生を引きつけています。

 一般過程・技術過程では、高校卒業後は例外を除いて大学や短期大学(上級技術者免状BTSや工業技術短期大学IUT)に進学するのが一般的です。

 僕が高校生だった頃、3年生になって初めて卒業後の進路を考えはじめる学生もかなり多かったですが、2021年のバカロレア(高校卒業試験)改革(2023年更新)以降、高校2年時に重要な選択をしなければならなくなったので、1年生のときから真剣に考えないといけなくなりました。というのは、今まで高校1年は一般教養的な役割を果たしており、2年目から大まかにL(Littéraire文系)、S(Scientifique科学系)、ES(Economique et Social経済社会系)の三択から進学を決めていたのです。ところが、2021年以降その区別がなくなり、1年目は変わらず全員共通で一般教養的な準備の1年ですが、2年目からはTronc commun(共通科目)に加えて12のSpécialités(専門科目)から3科目を自由に選ぶことになっています(3年目は1つ減り、2つしか残りません)。レストランにたとえてみれば、今までは3つのメニューしかなく、その中の料理が決まっている「お任せコース」でしたが、今のバカロレアでは、決まっている料理のほかに、お好みでほかのものをアラカルトで選べるようになったということです。自由が増えた分、選ぶ側の悩みや疑問も増えたのも事実です。具体的に、高校1年の時点で(その専門科目を選択するとき)進路を熟慮しないといけないので、生徒たちも保護者もみんな必死になるのです。

*1今日のフランス「マクロン大統領、職業高校の改革案を公表」
www.parisettoi.fr/news/20230505-001/


フランスの教育制度の概要については、以下のサイトでもわかりやすく紹介されています。
ぜひご覧ください。

一見で分かるフランスの中等教育制度
upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/9f/フランスの中等教育.svg

フランスのバカロレア制度について(日本語)
ja.wikipedia.org/wiki/バカロレア_(フランス)

マクロン大統領が職業学校訪問時に発表した職業課程改革案について(仏語)
www.lemonde.fr/politique/article/2023/05/04/ lycees-professionnels-emmanuel-macron-veut-investir-pres-de-1-milliard-d-euros-dans-la-filiere-et-remunerer-les-stages_6172014_823448.html

フランス国民教育省のサイトでまとめられた統計(仏語)
www.education.gouv.fr/EtatEcole2022


ジュリアンさん
日本古典漢文を専門に、長年フランスの現地高校や大学、グランゼコールで日本語教育に携わっている。

この記事の執筆者

エトワ編集部

ET TOI(エトワ)編集部です。皆様のお役に立つ記事を執筆します。

関連記事

おすすめ記事