春の心地よさから徐々に夏の気配を感じ始める6月。フランスでは、この月は比較的気候が穏やかで雨の日も少ないため、日本同様に結婚式を挙げるカップルが多いと言われています。
そこで今回は結婚式に関連して、フランスでの結婚式の定番デザートで伝統菓子でもある、「クロカンブッシュ」についてお話しします。
歯ごたえが自慢のシューの塔?!
クロカンブッシュとは、小さなシューにカスタードクリームを詰め、これを煮詰めたあめ(またはカラメル)にくぐらせて、円錐形に組み立てたお菓子のこと。フランス語ではcroquembouche、croque-en-bouche、croqu’en-boucheなどいくつかの表記が存在しますが、いずれも「口の中でカリカリとした歯ごたえを感じる」という意味に由来します。その形状からpyramide de choux(シューのピラミッド)という別名もあり、菓子や糖菓などを組み立てて作る大型の装飾菓子、ピエス・モンテpièce montéeの一種とされています。
このクロカンブッシュの原型が誕生したのは19世紀初頭。アントナン・カレームというシェフであり、パティシエでもある、当時のフランス料理界を代表する料理人が考案しました。彼は先述したピエス・モンテの分野で、当時数々の祝典を彩るさまざまな装飾菓子を考案したことで知られています。カレームのクロカンブッシュは、その豪華な見た目から結婚式でのお祝いのお菓子として人気を博しました。
19世紀の作家アレクサンドル・デュマの『大料理事典』(1873) にもその記述があり、当時から祝いの席での工芸菓子だったことがうかがえます。
そうしたことから、フランスでは現在も縁起もののケーキとして結婚式でふるまわれることが多いですが、そのほかにも洗礼式やクリスマスなど、人生の門出となるような場面や特別なお祝いの席で供されるそうです。
祝宴を彩る幸福のお菓子
「装飾菓子」というに相応しく、クロカンブッシュは高く高く積み上げられたとても豪華なお菓子なだけに、作るにはとても手間のかかる作業を重ねなければなりません。一般的な方法として、小さなシューを大量に焼き、そこにカスタードクリームを入れていきます。それらに煮詰めたあめ(またはカラメル)を付着させながら、型紙を使って成形していきます。シュー生地の食感、あめの温度調整とその取り扱い、成形、固まった後に型紙を抜く作業など、全工程において注意深さと慎重さが求められます。結婚式の場合には、頂上にカップルの像などのデコレーションが施されたり、周囲には飴細工のオブジェやフルーツなどがあしらわれたりして、そのときだけのオリジナルのクロカンブッシュが作られます。
シューを扱ったお菓子はフランスに複数ありますが、クロカンブッシュは普段なかなか出会うことができない特別なもの。あめ細工の歯ごたえと甘み、程よい食感のシューとバニラが香るカスタードクリーム、それぞれが絶妙に絡み合う幸せのデザートです。ぜひお祝いの席で味わってみたいですね。
参考資料・サイト:
『フランス料理ハンドブック』柴田書店
Happy Apicius – Le croque en bouche Happy Apicius, un gâteau à croustiller !
https://happy-apicius.dijon.fr/le-croque-en-bouche-happy-apicius-un-gateau-a-croustiller/
Wikipedia – Croquembouche
https://fr.wikipedia.org/wiki/Croquembouche