「フランスの街の人口分布は?」「街により教育水準は異なる?」など、ニュースを追っているだけではなかなかわからないフランス社会の現状があるのではないでしょうか。ここでは私たちがアクセス可能なデータを用いて読み解いた、フランスの「いま」を紹介します。
フランスにはCapgemini Inventというコンサルティング会社があり、国やヨーロッパ、世界に関するさまざまなテーマに関して研究を行っています。2022年のオープンデータ(公的機関が自らの事業についてデータで公開する意味)に関するランキングによると、フランスは「成熟度」においてヨーロッパで1位となりました。今やオンラインポータルのおかげで、誰もが多くのデータにアクセスすることが可能です。本稿では、このような私たちがアクセス可能なデータをもとに見えるフランス社会についてお話ししていきます。
地理的なデータからみたフランス
フランス語を勉強し始めたとき、日本の「(都道府)県」とフランスの「préfecture(県庁所在地)」という言葉が似ていることに驚いたことがある人もいるのではないでしょうか。フランスのpréfectureは革命下の1790年に創設されていますが、フランスで最も小さい行政レベルはコミューンcommuneという市町村。スペインが約8,000、ドイツが約11,000であるのに対し、フランスは35,000近くあります。
しかしコミューンの数は多くても、1コミューンあたりの人口は平均1,800人程で、非常に少ないと言えます。2015年には、人口500人未満というところもありました。
このように多くのコミューンで人口が少ないのは、イル・ド・フランスというパリ圏をはじめとする大都市に人口が集中しているためです。イル・ド・フランスは、特にフランスの人口の3分の1が住んでいる地域。イタリアやドイツなどの他のヨーロッパ諸国と比較すると、フランスは首都圏に人口が集中しており、地方都市の人口比重が低いことがわかります。
余談ですが、パリはフランスで一番人口の多い街だと思われるかもしれませんが、一番多いのは、実はリールのある「北」を意味するノール県です。
次の図を見るとわかるように、20世紀に発生した農村からの人口流出以降、フランス人の75%が都市部に住んでおり、都市の中心部とその周辺部、そして中規模の町に人口の多くが集中しています。一方、北東部から南西部にかけては人口密度が低く、この一帯は「空白の斜線」(diagonale du vide)と呼ばれます。この斜めの形は、19世紀に産業活動の中心地である炭鉱の周辺に農村人口が移動したことなどによって生まれました。
これは、建物の平均築年数など、多くの指標で見ることができます。
フランスの市町村数の多さは、二つの意外な結末をもたらします。一つは、名前の同じコミューンが4,000近くあり、そのことが混乱を招くということです。例えば、フランスのメディアでは日本のそれとは異なり、しばしば都市名の前に県名を用いないことが多く、わかりにくいです。例として、サント=コロンブ(Sainte-Colombe)という名の市町村は12あり、国内でもっともよくある都市名です
同名のコミューンを表した図(マウスオーバーでコミューン名が表示されます)
もう一つは、自治体が多いことによるコスト高です。例えば、選出された自治体議員は50万人近く、人口のほぼ1%です。内務省が合併を試みてきましたが、大きな成果は得られませんでした。そこで、政府はEPCI(口語表現でl’agglomération)というコミューン間協力公施設法人を持つ中間自治体層を作ったのです。コミューンは公的資金を節約するために資源を共有することを奨励されています。フランスを旅していると、「〜メトロポール」や「ル・グラン・〜」といった名称を目にすることがあるのは、そのためです。
後編では、引き続き市町村と人口分布に焦点をあてながら、教育格差についてお話しします。
後編は9月20日(水)公開予定です。