新年の始まりに味わう伝統菓子
黄金に輝く円形のパート・フイユテPâte feuilletéeと呼ばれるパイ生地、そして中にはアーモンド・クリームとカスタードクリームを混ぜ合わせたフランジパンがぎっしりと詰まった、年に一度だけの特別なフランス菓子は何でしょう?
そう、ガレット・デ・ロワ galette des rois(王様のガレット)。フランスでは、クリスマス後から1月中くらいまでパン屋さんや菓子屋さん、さらにはスーパーマーケットなど、いたるところで販売されます。近頃では日本でもだいぶ見かけるようになってきたのではないでしょうか? その魅力はなんといってもサクサクとした生地の食感とバターの香り、そして甘くてしっとりとしたフランジパンの重厚感。シンプルなのに食べ応えがあって、一度口にするとこの幸福感は忘れることができません。
歴史をさかのぼると……
しかし、なぜ年に一度だけ、それも1月だけの限定なのでしょうか。
歴史を掘り下げてみると、古代ローマ時代、農耕の神・サトゥルナルSaturnalesの祭りにまでさかのぼるとされています。これは豊作を祝うお祭りで、お祭りの間にこの宴の王を選ぶという慣習がありました。その際にそら豆を使用し、そら豆を引いた者がこの宴の王になったということです。この慣習はその後も少しずつ形を変えながら存続し、やがてキリスト教が普及するようになって、宗教的行事となりました。それが現在のフランスの祝祭日、公現祭 Epiphanieです。公現祭とはキリスト教の祭日で、東方の三博士とよばれる3人の王様がベツレヘムを訪れ、キリスト降誕を祝ったとされる日。旧典礼暦では1月6日、現在では1月2〜8日のあいだの日曜日に当たります。この日を祝して食べるのがガレット・デ・ロワ、つまり王様のガレットであり、ガレット・デ・ロワに入っているフェーヴfèveと呼ばれる陶器の人形は、当時のそら豆に由来するとされているのです。
伝統的な食べ方
ガレット・デ・ロワには、先に記したフェーヴとよばれる小さな陶器の人形がガレットの中にひとつ入れ込まれており、また紙製の王冠も一緒に手渡しされます。伝統的な楽しみ方としては、家族が集まる場でガレットを人数分にカットし、テーブルの下に入った最年少の子供が誰にどのガレットを配分するか決めるというものが一般的です。ガレットの中にフェーヴを見つけた者は、王冠を被り、王様、または王妃様として家族から祝福を受け、その一年を幸せに過ごすことができるとされているのです。
また、一昔前では、ガレットを切り分ける際に人数分プラス1人分をカットし、余りの1切れは貧しい人に施したとも言われています。
ガレット・デ・ロワはガレットだけではない!?
実はこのガレット・デ・ロワ、フランス全土でまったく同じものというわけではありません。すでにご紹介したようなパートフイユテでできたガレットは、主にパリ周辺やフランス北部、リヨン近郊などで見られるものです。一方、北部ダンケルクDunkerqueにはガレット・デ・ロワ ダンケルクワーズgalette des rois dunkerquoiseというガレットがあり、これにはブリオッシュ生地にラムの風味をきかせ、バタークリームをたっぷり使用するのだそう。そのほか、南部の地域ではガトー・デ・ロワgateau des rois(王様のケーキ)が主流で、オレンジフラワーウォーターで香りをつけたブリオッシュ風の生地に砂糖漬けの果物を添えたタイプがよく食べられると言われています。フランス国内であっても、フランス語圏の国によっても、さまざまなタイプを味わいながらその地域性を楽しんでみるのも、新たな発見かもしれませんね!
最後に
長い歴史とともに、フランス人から愛され続けるガレット・デ・ロワ。2018年のIfop ( Institut français d’opinion publique ) によるアンケート調査では、アンケート回答者の94%が1月に最低1度はガレット・デ・ロワを食べ、さらにそのうちの64%は1度だけでなく複数回ガレットを味わったというデータが発表されています! 有名な菓子屋さんはもちろんのこと、いつも利用する街角のパン屋さんでも、毎年さまざまな工夫をこらしたガレット・デ・ロワが考案されています。1年に1度だけの特別な期間。皆さん、今年はどんなガレット・デ・ロワを味わいますか?