バルニエ首相は1日、下院で施政方針演説を行った。財政収支の改善や治安強化などを掲げたが、具体的な措置に立ち入るのは避け、慎重な演説となった。
バルニエ内閣は下院で過半数を持たず、不信任案の成立を避けるには、極右政党RNが左派連合による不信任案に同調して賛成票を投じないことが鍵になる。バルニエ内閣を支持する勢力(共和党、旧連立の各党)の間の足並みも揃っておらず、バルニエ首相は極めて困難な政局運営を強いられている。初の施政方針演説は、そうした困難がうかがわれる内容になった。
バルニエ首相は予算運営について、2025年に財政赤字の対GDP比を5%まで圧縮することを目標に設定。同比率3%以内という欧州連合(EU)の基準達成を2029年に遅らせる方針を確認した。2024年に同比率は6.2%まで増大する勢いとなっており、2025年に5%を達成するには、400億ユーロを超える節減が必要になる。首相はその実現の方法として、歳出削減に軸足を置くとしたが、大企業と富裕層を対象にした臨時課税を導入する方針も確認した。詳細については立ち入らなかった。 首相は、5つの政策上の優先課題として、生活水準、公共サービスへのアクセス(学校、医療など)、治安、移民、友愛、を掲げて、これらの課題について、いくつかの施策を説明した。まず、11月1日付で、法定最低賃金(SMIC)を2%引き上げると予告。また、初めて住宅を購入する人向けの無利子融資(PTZ)の適用条件の緩和を予告した。年金改革と高齢層の就労促進については、労使の協議に委ねる考えを示した。クローズアップされて久しい治安対策と移民問題については、国民の期待に沿って対応を強化する意欲を示したが、タカ派のルタイヨー内相が求めている外国人対象の医療援助の制度見直しについては言及せず、法治国家の原則を遵守する中で対策を進める姿勢を確認した。解散総選挙によって宙に浮いた格好の、審議中だった法案については、農業法案、行政改革法案、そして、「生命の終わり」に関する法案を特に取り上げ、来年初頭の審議再開を約束した。このほか、政府として、国民の声をよりよく反映させ、国会との関係を改善することも約束。「国民審議の日」を設けて、自治体単位で国民の声を聴取する機会を作ることや、国会の法案審議において、議員団提案の法案審議を増やすなどの方針を示した。一部勢力が求めている比例代表制の導入については、「イデオロギーを持たずに検討に応じる」としたが、具体的な約束はしなかった。首相はまた、妊娠中絶や同性婚、体外受精の権利などを挙げて、獲得された自由を擁護すると約束。人種差別、ユダヤ人排斥、女性への暴力、コミュニティ中心主義などには屈せず、政教分離を擁護するとの姿勢も確認した。