マクロン大統領は5日、首相にミシェル・バルニエ氏を指名した。同日中にアタル首相との間で引継ぎ式が行われ、数日中に組閣人事が発表される見通し。その後に国会での信任投票が行われる。
バルニエ氏は73才。保守野党「共和党」に所属し、2022年の大統領選挙においては、共和党の公認候補となることを目指したが断念していた。バルニエ氏は国会議員として、また閣僚として、さらに欧州委員会の委員として、長く豊富な経験がある。英国の欧州連合(EU)離脱に当たってはEU側の交渉官を務めて、困難で長期にわたる交渉をまとめ上げた実績も有する。
マクロン大統領が決めた解散総選挙を経て、下院では過半数を得る勢力がなく、首相選びは難航した。これまでに左右の両陣営から数人の候補の名前が挙がったが、いずれも国会運営を可能にする十分な基盤を確保するめどが立たず、指名が見送られてきた。50日余りを経てようやくバルニエ氏の首相指名に落ち着いた。バルニエ氏の人選は、マクロン大統領と同じ親欧州派の信念を共有していることに加えて、大統領が特に見直しに応じることを嫌がっている案件(年金改革など)で、大統領に近い立場であることが決め手になったとも考えられる。下院での信任においては、極右RNがひとまず不信任に合流しないことを約束したといい、これで指名直後に不信任となるリスクはなくなったため、首相指名が実現した。これについては、統一候補を推してきた左派連合NFPの各党が揃って反発。マクロン大統領とRNの統一候補だなどとして、首相指名に不信任案を提出することを明らかにしている。左派連合は特に、移民制限に関してバルニエ氏がこれまで掲げてきた政策に反対。また、同氏が過去に、同性愛を犯罪とする規定の削除(1982年)に反対したことを問題視している。
いずれにしても、実際の国会運営に入れば波乱は必至で、バルニエ内閣は短命で終わる可能性がある。英国のEU離脱の交渉官として見せた粘り強さと妥協を探る姿勢がどの程度成果を挙げるかが注目される。バルニエ氏本人は、アタル首相との引継ぎ式の挨拶で、党派主義に陥ることなく、国民に真実を告げると言明。特に国の債務と、環境上の債務(現在の無策で次世代に払わせることになる代償)について言及した。バルニエ氏はまた、すべての政治勢力を尊重し、その意見を聞くとも約束した。各論に入る段階で妥協点を見いだせるかがカギになる。
KSM News and Research