エアバスは19日、仏アトス(情報処理)のビッグデータ・セキュリティ部門(BDS)の買収を断念すると発表した。経営難のアトスはこれで状況が一段と厳しくなった。
高債務に苦しむアトスにとって、BDS部門の売却は、債権銀行団との間で進めている債務再編交渉における重要な手土産だった。これが実現しなくなったことで、アトスは民事再生法の適用申請に追い込まれる可能性が高まった。エアバスは、アトスの破綻回避にこだわるルメール仏経済相から同部門を買収するよう強い圧力を受けていた模様で、これがかえって逆効果になった可能性もある。エアバスは、買収部門に含まれるスパコン事業の赤字を嫌って最初から消極的な姿勢だったといい、仏政府のごり押しに、フランスと並ぶエアバスの主要株主であるドイツ勢は、会社の利益に反してアトス救済を押し付けられるとみて、反発を強めていたともいわれる。
アトスは、情報処理事業を売却する方向でチェコの実業家クレティンスキー氏と交渉を進めていたが、こちらも既に不調に終わっている。エアバスの断念は痛手で、アトスは20日に予定していた2023年業績の発表を延期し、対応策の検討に入った。アトス株価は同日に20%を超える大幅な下落を記録。年頭来の低下幅は70%を超えている。なお、アトス救済にはダッソー・グループ(戦闘機など製造)が関心を示しているとの見方があり、ダッソーと資本関係があるタレス(防衛電子)も、一部事業の買収を検討後に断念したという経緯がある。ただし、報道によれば、タレスが再交渉に応じるとしたら、債務再編が一段落することが前提だという。