1月9日に任命されたガブリエル・アタル首相は、9日午後に首相府においてボルヌ前首相との引き継ぎ式を行った後、洪水で多大な被害が出ている北仏パドカレ地方を視察に訪れ、被災した住民らと面会した。
アタル首相はマクロン大統領の第1期就任後まもなく、教育・青年担当閣外相、政府報道官、予算担当相、教育・青年相を歴任して現在に至っており、首相就任後の演説の中では、昨年7月以降に教育相として発表した「学校でのアバーヤ(イスラム教の女性の黒い長衣)着用の禁止」、「生徒の学力増進策」、「いじめ対策」といった措置に触れ、こうした「学校の大義」を首相府に持ち込むと述べて政策継続への意気込みを強調した。首相はまた、特に極右陣営が取り沙汰する「フランスの衰退」という見方に触れてこれに反論。国の「権威」と「治安」を絶対的優先課題として挙げ、「フランスの社会モデルの維持」「移民のより良い管理による国家及び欧州の主権の強化」、「労働の優先などによる経済変革」といった方向性も強調した。
マクロン大統領が弱冠34才のアタル首相を任命したことについては、まずは今年6月の欧州議会議員選挙へ向け、支持率が急上昇している極右RNのジョルダン・バルデラ党首(28歳)に対する砦とし、さらには2027年の次期大統領選挙へ向け与党陣営の建て直しを進めるための心機一転をはかることを狙った人選との見方が多い。国内の左派陣営からは、「マクロン大統領の報道官/クローン」、右派陣営からは「マクロン大統領の操り人形」と、いずれからも同じような批判の言葉が出ている。与党陣営でも当初は人選に驚く声が多かったとされるが、政治センスとコミュニケーション力には定評のあるアタル氏が、新たな飛躍をもたらすことへの期待は大きい。
また、西エル・パイス、米ニューヨークタイムズ等の国外各紙も、その早熟な政治キャリアを始めとしてマクロン大統領との相似性を指摘し、将来の後継者を見る論調で一致している。独デアシュピーゲル誌は、6月の欧州議会議員選挙において、世論調査でトップに付けるRNとの差を縮めることが第1の課題と指摘している。 新首相はまず閣僚人事に取り組むが、今週中にも労組や市民団体との会合を行うと発表している。