アルザス地方の魅力を季節ごとにお伝えする本連載。今回は夏の時期にお勧めのヴォージュ山脈での楽しみ方についてご紹介します。今後の旅の参考になること間違いなしです!
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二つの自然公園があるアルザスは自然が豊か
アルザスはストラスブールをはじめとする古都からかわいらしいワイン街道の村々、またはその歴史をたどる戦跡まで、多岐にわたる訪れるべき場所がたくさんありますが、もうひとつ忘れてならないのは豊かな自然です。日も長くなってきた今日この頃、夏のバカンスシーズンにアルザスで自然を満喫する旅はいかがでしょう。
アルザスには二つの地方自然公園があります。
一つはヴォージュ・デュ・ノール地方自然公園(Parc naturel régional des Voges du Nord)で、アルザスのバ=ラン県(Bas-Rhin)とお隣モーゼル県(Moselle)にかかる、アルザス北方の自然公園、もう一つはアルザス南西にかかるバロン・デ・ヴォージュ地方自然公園(Parc naturel régional des Ballons des Vosges)です。現在フランスに58ある地方自然公園の中でもバロン・デ・ヴォージュ地方自然公園は広大で、アルザスのオ=ラン県(Haut-Rhin)、同じくグランテスト地方のヴォージュ県(Vosges)、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地方のオート=ソーヌ県(Haute-Saône)、テリトワール・ド・ベルフォール県(Territoire de Belfort)にかけて広がっています。
自然公園では、生物多様性の保護と評価を目的として、自然公園内での商業活動をはじめ人間の活動と環境保護のバランスを保つなど、教育、文化、ツーリズム、農業などあらゆる分野の整備を行っています。
夏のヴォージュ山脈の稜線をハイキング
そんな豊かな自然に恵まれた地域です。アルザスを訪れるならこういった自然を満喫するのもお勧めです。年間を通して山歩きはできますが、日も長いですし必要な服装や装備の点から見ても夏の方が山歩きはしやすいので、ヴォージュ山脈の夏はたくさんのハイカーで賑わいます。
ハイキングコースは場所によって難易度もさまざまで、それぞれがレベルや目的に合わせて選べます。150年の歴史を誇るヴォージュ山脈クラブ(Club Vosgien)というアソシエーションがあり、山歩きのプロモーション、山道やハイキングの標識の整備をしてよりよいハイキングの環境を作ってくれています。また、ヴォージュ山脈のハイキングのガイドブックも出ていますし、自然公園のホームページや自然公園内の自治体の観光局などでもハイキングコースのモデルなどを紹介していますから、そういった情報をもとにコースを選んでハイキングの計画を立てるのもよいでしょう。
特にバロン・デ・ヴォージュ自然地方公園の稜線ルート(route des crêtes vosgiennes)は冬季は閉鎖になるのもあり、春に開通すると多くの人が集中する非常に人気のあるエリアで、車やバイク、自転車のツーリングもよく見かけます。車をなるべく減らす観点から、夏のハイシーズンにはいくつかのポイントを巡回するバスが走り、近隣の鉄道駅からこのバスを利用して車なしでヴォージュ山脈のハイキングに出かけることもできます。
また、夏はたくさんの高山植物の花が目を楽しませてくれます。ホメオパシーで使われるアルニカの黄色い花もヴォージュ山脈で見られます。勝手に高山植物を摘んで持ち帰るのは禁止ですが、特にアルニカは免許がある人でないと摘めないそうです。
野生のブルーベリーの群生地に出くわすこともあります。栽培されているものよりもずっと小粒ですが、味が濃くて実の中まで赤い色です。運よく見つけたら、摘んでその場で味見するのもこの時期ならではの楽しみです。ただし野生のブルーベリーの摘み取りには規則があり、地域ごとに収穫量が制限されていますし、器具を使っての採取は禁止ですので、注意が必要です。特に無許可の商用採取は固く禁止されています。それでも毎年、違法採取者の逮捕のニュースを新聞で目にするのもこの時期の風物詩と言えるかもしれません。
とはいえ、個人用の収穫量の制限はだいたいどこも1~3リットル前後までで(群生地に注意書きの看板があれば制限量の表記があるので確認してください。)、小さな実を手摘みでそこまで集めるのはかなり大変。その場で楽しむくらいの量であれば問題ありません。野生のブルーベリーを見つけたらぜひ試してみてくださいね。
フェルム・オーベルジュで酪農家ご飯を
夏にハイキングをしていると、どこからともなくカウベルのカランコロンという音が聞こえてきます。ふと辺りを見回せば、牛の群れが草をはんでいるのを見かけることでしょう。
ヴォージュ山脈一帯では移牧が行われていて、冬の間は平地の農場で過ごし、春になると牛を連れて山を登って山間部の農場で夏を過ごします。牛とともに移動してチーズ作りを営むこうした酪農家のことをマルケール(marcaire)といい、これはアルザス語の搾乳者malkerがフランス語化されたものです。移牧は酪農家にとっては年に二回の大きな行事です。秋にはマンステールの谷で牛と共に下山する二年に一度の大きなお祭りもあり、牛と同じくらいの多くの人が花飾りを付けた牛の群れの後について下山します。 今では登山者がお腹を満たすために訪れる人気スポットにもなっていて、農場で供される酪農家のご飯、ルパ・マルケール(repas marcaire)はハイキングの楽しみのひとつです。このようにレストランを経営する農場のことをフェルム・オーベルジュ(ferme-auberge)といい、中には宿泊も可能なフェルム・オーベルジュもあります。基本的に酪農業を助ける副業的な位置づけで、アグリツーリズムとして農家の大事な収入源にもなっています。
代表的なルパ・マルケールを2つご紹介しましょう。
一つ目はお肉のパイ包み、トゥルト(tourte)です。牛肉や仔牛肉、豚肉の合い挽き肉に香味野菜とスパイスが入っていますが、レシピは各フェルム・オーベルジュで違います。キャロットラペなどのたっぷりの生野菜サラダとともにサービスされます。アルザスでは地元のレストランやパティスリーでもスペシャリテとして並ぶポピュラーなお料理ですが、すばらしい大自然の風景を愛でながら食べるトゥルトのおいしさといったら!
そしてもう一つがロイガブラデルディ(roïgabradeldi)です。ジャガイモのスライスをベーコンとたっぷりのバターで加熱調理した料理で、付け合わせで出たり、豚の燻製肉などとともに食べます。 その他にも名産のマンステールチーズを使ったグラタンなど、野性味あふれる種類豊富なルパ・マルケールが他にもありますのでいろいろ試してみてくださいね。
また、デザートもはずせません。最も代表的なのがシエスカス(siesskass)です。チーズを作る工程でできるカード(凝乳)にたっぷりのキルシュをかけたもので、チーズの製造拠点ならではのデザートです。子供には砂糖をかけたものが出されますが、はちみつやジャムとの相性も抜群です。
それから、ブルーベリーのタルトも人気です。野生のブルーベリーを見たらやっぱりその場で食べたい! となりますよね。ただし、フェルム・オーベルジュの大半で出されるブルーベリータルトには、他地域・他国で収穫されたブルーベリーが使われています。それだけヴォージュ山脈で採れる量が少なく、収穫に手間がかかるということです。それを知っていても大空の下で食べるブルーベリータルトは満足に値します。
ルールを守って安全に楽しく!
山道を外れない、山に何も残さない、植物を取らない、夏の低山とはいえ最低限必要な服装と装備を準備するなど、基本的なマナーを守って、安全で楽しいハイキングを目指すことで、大自然を満喫しながら学べるなんて最高です。
皆さんもぜひ、夏のヴォージュ山脈で自然とそこに暮らす人々、動植物をたずねにいらしてくださいね。
参考サイト:
ヴォージュ・デュ・ノール地方自然公園
Parc naturel régional des Vosges du Nord (parc-vosges-nord.fr)
バロン・デ・ヴォージュ地方公園
Parc naturel régional des Ballons des Vosges | PnrBV (parc-ballons-vosges.fr)
ヴォージュ山脈クラブ
Accueil – Club Vosgien (club-vosgien.eu)
オ=ラン県のフェルム・オーベルジュのアソシエーション
Les fermes-auberges du Haut-Rhin en Alsace (fermeaubergealsace.fr)
ヴォージュ山脈稜線ルート巡回バス
Navette des crêtes 2023 | PnrBV (parc-ballons-vosges.fr)